新しいオフィスを訪れたとき、私が真っ先に観察しているのは、入口の家具ではありません。竣工から3年経った会社の、奥のほうにある共有テーブルや椅子です。そこには、その会社が家具とどう付き合ってきたかが、痕跡として残ります。

角の塗装がほどよく剥げて、生地に馴染んだ手触りがある椅子。逆に、5年経たずにささくれだって買い替えを迫られる椅子。違いを生んでいるのは、価格でもブランドでもなく、「ちょうどよく古びる素材かどうか」という一点です。

「ちょうどよく古びる」という選定基準

無垢材、本革、真鍮、リネン、ウール。これらは時間とともに表情が深まる素材です。傷も、汚れも、ある一定の範囲では「味」として受け入れられます。逆に、合成皮革、ラミネート、化粧シートは、新品が一番美しく、そこから劣化の一方通行になります。

家具を選ぶとき、新品の状態ではなく「5年後にどう見えるか」を判断軸にする。

もちろん、コストや耐用年数の都合で、すべてを"古びる素材"にできるわけではありません。でも、人がよく触れる場所、視線が集まる場所──エントランス、応接、エグゼクティブの執務空間──は、迷わず古びる素材を選ぶことをおすすめします。

"家具リスト"を、設計段階で作る

私たちは設計の初期段階で、お客様と「家具リスト」を一緒に作ります。単に何を買うかではなく、5年後・10年後にどう手入れするか、どこから入れ替えていくかまで含めて、長期の運用計画として書きます。

たとえば、椅子は5年で張り替え、デスクは10年で表面再加工、ソファは7年で更新。こうした見通しが立っていると、運用がはじまってから慌てません。投資判断もしやすくなります。

家具と空間は、別々に進化する

もうひとつ大切にしているのが、家具と建築工事を「同じ意思決定の上に乗せない」という考え方です。建築は10年〜20年単位の投資、家具は3〜10年単位の投資。サイクルが違うものを同じ予算枠で語ると、家具のしなやかな入れ替えができなくなります。

設計の段階で、家具予算と工事予算を分け、家具については「初期投資 + 5年運用予算」をセットで考える。これだけで、家具との付き合い方は大きく変わります。

家具選びでお悩みの方、運用計画も含めてご相談いただける方、お気軽にどうぞ。